<働く>ときの完全装備──15歳から学ぶ労働者の権利

2月 7th, 2011 by | Print

『<働く>ときの完全装備──15歳から学ぶ労働者の権利』

橋口昌治・肥下彰男・伊田広行著(解放出版社 2010年9月)

定価:1600円+税   ISBN978-4-7592-6733-4 C0037

内容紹介

店長に「来なくていい」と言われたら、どうすればいいの?

労働基準監督署に行くときに注意した方がいいことって何?

失業や妊娠で働けなくなったときに生活を支える方法は?

働いている人も実はほとんど知らない実践的な基礎知識を、工夫された教材でわかりやすく学べます。

例えば、社長さんの間違った発言に対し、正しい労働法カードを選んで反論できるでしょうか?

また掲載された12編のロールプレイ教材では、店長への反論や団体交渉、労基署の申告などを体験します。

教師用解説も充実しているので、労働法のことがわからない先生や保護者の方でも安心です。

働く人の視点に立った「使える」教材なので、ぜひ手にとってみて下さい。

中高生から大人まで、労働者の権利を学ぶことができる実践的な教材集です。

学校でも使えますが、自分ひとりで読むだけでも、無駄なことが書いていなくて実践に役立つことだけが平易な言葉で書かれているので、勉強になります。

手元においておけば労働問題や生活保護のことで調べたいことがすぐにわかります。

ロールプレイが豊富で、穴あき問題などもあるスタイルで、解説も実践的なので、「ああ、また似たようなものか」と思う人にも新鮮なはずです。表題だけだと、この数年、若者に労働法を伝えるようなものがたくさんでましたが、本当に団体交渉しているような人が書いたのは一部です。学者や弁護士が書いたものとはまったく違います。

以下に、著者のご好意で、『はじめに』の部分を転載させていただきます。

はじめに

「先生、僕はもうダメです。先生に会いに行く交通費もありません。」悲鳴にも似たメールが卒業生から届きました。いまから思えば、私と本書をともに執筆することになった関西非正規等労働組合ユニオンぼちぼちのメンバーとを出会わせてくれたのは卒業生の彼の存在であったと言えます。

高校時代の彼はとにかく真面目に何事にも取り組む生徒であった。在学中に母親を亡くした後もしっかりと自分の進むべき道を歩み、私を含めた周りの多くの人たちに影響を与えてくれた生徒だった。卒業後もいろんな面で彼に支えられてきたのはむしろ私のほうでした。

彼は大学卒業後、地元で一旦は就職するも人間関係のもつれから退社することになり、その後人材派遣会社で働いていました。しかし、その会社では違法な二重派遣も常態化し、経営者はいかに安い賃金で日雇い派遣の労働者をこき使い、そして賃金をピンハネして儲けるかに躍起になっていたそうです。「人を人と思っていない」会社に彼は耐えきれずに退社しました。その後、会社からいやがらせを受け続け、彼は精神的にどんどん追いつめられていきました。私はこの状態が続けば、彼は「殺される」かもしれないと感じました。このような状況の彼を物心両面でサポートしていたのが、ユニオンぼちぼちのメンバーでした。彼のように様々な理由で高校卒業(中退)後に、家族・企業(従来型の労働組合を含む)・地域からの支えを受けることができない若者を、ユニオンが労働相談だけでなく生活相談も含めてしっかりサポートしていることを知り、正直私自身のユニオンに対するイメージも大きく変わりました。

彼のように社会に押し潰されそうになっている若者がいまの日本には無数にいるに違いない。連絡のとれていない卒業生や中途退学生徒の中に、同じような状況に陥っていて、しかもどこに助けを求めていいかもわからない者もいるのではないか。在学中に、何を伝え、ともに学んでおくべきだったのか。「学校」の果たせる役割とは何なのか。

この問題に対して、文部科学省が2004年に出した『キャリア教育の推進に関する総合的調査研究協力者会議報告書』には次のように書かれています。

「子どもたちは,卒業等によって学校を離れた後も,職業生活に関する様々な選択を迫られたり新たな方向に進路を求めたりする。その過程で,目標とする進路を達成できない場合も少なくない。事実,無職の若者やいわゆるフリーターには,安定した仕事に就きたいという気持ちを持ちながら,具体的にどう行動に移してよいか分からず,相談する相手もなく自分一人で悩んでいる場合も多い。

こうした事態が深刻なものとならないよう,キャリアを積み上げていく上で最低限持っていなければならない知識,例えば,労働者(アルバイター,パートタイマー等を含む)としての権利や義務,雇用契約の法的意味,求人情報の獲得方法,権利侵害等への対処方法,相談機関等に関する情報や知識等を,子どもたちがしっかり習得できるようにすることが大切である。その際,現実の具体的な問題に即して学んでいくことが大切であることに留意し,事例等に詳しい関係機関の職員等を講師として招聘し実施できるようにすることが望まれる。

また,こうした取組は,中学校卒業後すぐに就職する者や,高等学校を中途退学する者が少なからず存在する現状を踏まえ,それらの者がキャリアを形成していく上で極めて重要であることから,中学生あるいは高等学校1年生等の早い段階に実施する必要がある。」

ここに書かれている内容と本書の意図と重なる部分も多い。しかし、「こうした事態」は既に深刻化し「静かなる緊急事態」はさらに進行しつつあるのです。(p8-9参照のこと)「中高生向けの労働法の本を書いてくれませんか」という企画が解放出版社からもちこまれたときに、私は真っ先にユニオンぼちぼちのメンバーと本を作ってみたいと思いました。ユニオンこそが、「現実の具体的な問題に即した事例等に詳しい関係機関」だと考えたからです。本書の教材ロールプレイ編で取り上げられている事例のほとんどは、実際にユニオンに寄せられた相談事例等をもとに書かれています。

また、たんなる「知識」としてではなく、現実の場面で実践的に使える内容にしたいとの思いで、教材は「ロールプレイ」を中心としています。「ドラマ教育」についての積み上げが不十分な日本においては、ロールプレイの手法を教育現場で活用することに二の足を踏まれるかもしれません。しかし、学習者(生徒)がある問題に突きあたったときに、その問題解決に向けて、多様なアプローチが可能であることを知り、それを実際に体験できる最も有効な手法がロールプレイです。初めは、進行役(教師)が教室全体の前で、ある役割を演じる(ティーチャー・イン・ロール)ところから始め、学習者間で活動できるような流れを作って欲しいと思います。ワークシートには、学習者の内面の動きや学習者間での気づきを細かく書き込むようにはなっていませんが、学習の場では是非「いまそこで起こっていること」をできる限り共有するようにしてください。また、学習時間の最後には必ず「振り返り」の時間を設けて、それぞれの学習者の気づきを次の学習の時間の最初に全体化するようにしてください。教材のワークシート3には、学習者が問題解決に向けてアサーティブに権利を主張するロールプレイを載せていますが、「私たちならこのように主張する」という形に学習が発展していくことを期待しています。

最後に、本書の出版にあたり、法律家の視点から内容をチェックして頂いた弁護士の皆さん、15歳(中学生)からを対象にすることにアドバイスを頂いた中学校の先生、そして本書の企画から出版まで辛抱強く書き手を導いてくださった解放出版社編集部の加藤登美子さんには心から感謝の意を表したいと思います。ありがとうございました。

2010年7月   肥下彰男

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